朝は何とか早起きをし、朝焼けの差し込む海岸を散歩。8年半前に来たときは、僕と同じくフィリピンへ行くパートナーズはもちろん、同時に研修を受けていたベトナムのパートナーズの方々や、中央アジアからの留学生とも一緒に歩いたという、僕にとってはけっこう思い出深いスポットです。
すでに書いたかもしれませんが、前回の研修は1か月間の実施で、週末=研修のない日もそこそこあったため、のんびり遊ぶ余裕がありました。が、何しろ今回はたった3泊の研修(僕は前泊したので4泊)なのでいろいろもどかしい思いをしています。
あまりの寒さに足早にセンターへ戻って、朝食は食堂でいただきました。ちょうど他のメンバーも来ていたのでそれぞれのご経験をうかがいながら、僕のくだらない趣味の話をしたりして談笑。こういうのができるから対面の研修は面白いわけです。
①かつどうチャレンジ
今日のしょっぱなは授業見学から。前回と前々回とで学んだ内容を、より実用的な形で応用して自分のことを話すのが「チャレンジ」の眼目です。特徴として、活動シートがすでに宿題として課されていることがあり、授業内ではそのシートをもとにひたすら会話をするという構成になっています。ちょっと違いますが反転授業みたいな感じでしょうか。
第1課の「何語を話しますか」、それから第2課の「趣味は何ですか」の2トピックをそれぞれ50分使って練習。今回は研修の日本人見学者がふんだんにいるので、会話の練習相手として召集されました*1。
僕のペアの方は、ちょっと文法的についてこられていないところもあって、「英語ができます」「英語で話します」という助詞がかなりごちゃごちゃになっていました。運用レベルというか課題達成の観点から言えば、このあたりはあんまり問題なくて、「何語ができますか?」「英語でできます」とか、「家族と何語で話しますか?」「英語が話します」と言ったところで内容の伝達には問題ないと考えてもいいかもしれません。とはいえ、今日はせっかくの練習なので、楽しく自然なやりとりを心掛けつつも、やや婉曲的に否定証拠を与えながら会話をしていきました。
人数比の関係から「趣味」のトピックの方は参加できませんでしたが、人によって取り組みのレベルが全く違うのが印象的でした。習った文例にどうにか沿って話す人もいれば、過去に習ったページを見ながらすこし発展的なやり取りをする人もいれば、お題とちょっと違うやりとりをしているペアもいました。まあこのあたりはゴールとか現在のレベルがまちまちなので、結句これでいいのではないでしょうか。
なお、この「チャレンジ」の授業がカリキュラムに組み込まれているのは稀とのことです。昨日も書きましたが、「かつどう」だけを扱う拠点(国)もあるそうですし、ここでの学習はかなり手厚いと言っていいかもしれません。その場合はオンラインの教材「みなと」とか「まるごとプラス」で補完してもらうのがよいのではないか、というお話をチラッと伺いました。
②学習者体験
続いて、学習者の気持ちを理解するということで、フィリピノ語学習版として改造された『まるごと』*2の授業を受けました。
残念ながら僕は日本語パートナーズ時代にフィリピノ語を勉強したことがあったので、ほかのメンバーのように脳に猛烈な負荷がかかる体験はできませんでした。が、だからこそ少し引いた立ち位置から『まるごと』のギミックを見ることができたように思います。たとえば、聞いて説く問題の一部は、"rin"という語についての説明をしないままに進められたのですが、ただ聞くだけだと英語で言うところの"not"なのか"also"なのか、あるいは別の意味を持った語なのか判断する材料が与えられていないわけです。しかし、これは解答欄の数から類推することができます。以下は記憶をもとに再構成した例題です。
A: Ano ang gusto mo?
B: Gusto ko ng isda.
A: Ang karne?
B: Gusto ko rin ng karne.
見づらくなるので訳は付しませんが、この会話に与えられた問いは「Bさんが好きな食べ物は何?」で、解答欄は2つ用意されています。つまり、"rin"が"not"の意味だった場合、解答欄を2つ埋めることができなくなります。したがってそこから逆算すると"rin"が使われるのも肯定文、談話的に考えると"also"と考えることが可能なわけです。このように、文法を説明しなくてもどうにか予測できる仕掛けが、『まるごと』には盛り込まれているということでした。あとはそのあたりを教師が汲み取って、流れを妨げないように運んでいくことが必要になるということです。
③振り返り
昼を挟んで諸見学の振り返りです。
チャレンジクラスの振り返りの内容は、上でちょっと書いてしまいましたが、「漢字」について昨日頭に浮かんだ「書き順の必要性」について質問したところ、「漢字を書いている=日本語を書いているという満足感も大切にしたい」というお話をいただきました。要するに彼らのゴールは「読めること/読んで意味が分かること」なので、書けなくてもいいわけですが、達成感として書くことにもそれなりの比重を置いているようです。
理念を鑑みつつ還元するならば、従来のように漢字を「単漢字」として勉強するのではなくて、「漢字の熟語」(「かんじことば」とおっしゃっていました)として認識し、時間があれば「単漢字」に細分化して取り組むというイメージでしょうか。あくまで「熟語」として勉強するので、同じ漢字でも異なる読み方が別の課で登場することが『まるごと』では頻発しています。これをJFでは「スパイラル」と言っていましたが、文法だけでなく漢字でも適用されているというのが一等興味深かったです。
④経験者のお話
最後に、指導助手と専門家を両方経験された方のお話を聞く時間がありました。
現段階では正直、現地ニューデリーでする業務のことがほぼまったくわかっていませんし、今回のお話を聞き終えたところでそれがめちゃくちゃ具体化したわけでもありません。が、心構えとしてはいくつかヒントになりそうなことがありました。
特に指導助手はJFの中でも「若手の先生」みたいなイメージなので、現地の非常勤の先生ほかから頼られがちとのことなので、派遣地域で何が求められているのかを把握する力が大事になるようです。そのうえで専門家や上級専門家の助言を得つつ末端の(?)仕事をこなしていく、という感じでしょうか。
これが専門家になると、環境整備とか関係各所の理解を得る*3ために活動するとかいうように、ひとつ上の仕事をしなければならなくなります。僕は修士号を持っていないので専門家はできないわけですが、かなり大変な業務になるであろうことは想像に難くありません。一方その分、やりがいもあるとは思いますが。
研修は明日が最終日。夕方には大阪を辞して東京(a.k.a 現実)に戻らなければなりません。いま一緒に研修を受けているメンバーとは、日本語パートナーズの時と違って、一堂に会するチャンスは今後まずないと言っていいでしょう。せっかく仲良くなったのにそれはあまりに寂しいことです。オンラインでつながれる時代ではありますが、この研修を通じて対面のよさを知ってしまっているからこそ、切なさもひとしおです。
夜はおなじみ「にし川」で飲み会。おいしい刺身を食べつついろんな話に花を咲かせましたが、僕の気分としてはかなりおセンチです。
*1:あとからほかのメンバーも言っていましたが、今回僕らは『まるごと』を現地でどう使うかを勉強しているわけで、その点で言うと学生の会話相手として授業の中に入り込んでしまうと授業を鳥瞰的に見られないというデメリットがあります。また、本来は「日本人とペアで話す」という工程は存在しえないわけで、今回見たのは僕らがいるから成立している特別回になってしまっていますから、リアルの授業として考えることはできません。もちろん学生との交流は楽しいのですが、それならばもう1日とか長めの研修期間を設けてほしいな、とか思ったりします。
*2:むろん市販はされていません。担当の先生曰く「手作り」とのことでした。実は僕も研修用(というか個人用)に、いま勤めている学校の教科書のヒンディー語版を作ってみたことがあります。
*3:そのために「見える成果物」としてのポートフォリオの活用の話がすこし話頭に登って、この視点はほかでも使えそうだなと思ったことでした。